どうも。
30代ミニマリスト・よりこです。
保育士10年から派遣社員へ
私は10年間保育士をしていた。なんだかんだあって今年の3月に退職した。今は派遣社員としてOLをしている。
今の仕事は、外回りもちょくちょくあって、1人で外に行く機会がある。初めは1人で得意先に行くのは不安や緊張があったが、これが意外と楽しい。
各地の美味しいご飯にありつけるし、移動中は1人の時間が持てることが心の安定に繋がっている。
バスの中の出来事
今日の話は、とある片田舎に行った時の話。
その日もちょうど、得意先に向かう途中だった。駅から離れた場所だったのでバスに乗った。慣れない土地のバスは本当に難解で、これであっているかどうかソワソワしながらバスを待つ。幸運なことに、一発で行きたい場所のバスに乗り込むことができ、予定通り得意先に行くことができた。
滞りなく仕事を終え、またバスに乗り込んだ。
もうすぐお昼時だったからか、片田舎のバス便だったからか乗客は私の他にちらほらといったところ。
もともと田舎出身の私は、のんびりとした田園風景を窓越しに楽しんでいた。
何とも言えないブザーの音とともにバスが停車し、ドアが開いた。
ベビーカーを持った50代くらいの女性と可愛らしい男の子が乗車してきた。
片手にはベビーカー、もう片方には小さな男の子と女性は幾つになってもたくましい。きっとお孫さんと楽しいひと時を過ごすために頑張っているのだろう。それにしても今のおばあちゃんは若いな。
バスに乗り込むと、すぐそばの優先座席に座ろうとおばあちゃんが男の子を導いている。
しかし、男の子はバスを乗り込んだ側から全く動こうとしない。おばあちゃんは「ここに座るよ~」と優しく手を引くが全く聞く耳をもっていない様子。
子どもにはよくあることだ。
バスの運転手さんが見兼ねて「出発します。危ないので座ってください」とマイクで注意した。声のトーンが冷たいのが少し引っかかる。
おばあちゃんは慌てて、男の子を抱きかかえて座らせようとした。
男の子は自分の意にそぐわない事が起こったので、少しぐずった。一瞬は椅子に座ったがまたさっきと同じ場所に戻って駄々をこねている。
バスの運転手さんは、強めのトーンで更に注意を促し、バスを発進させた。おばあちゃんはすぐに抱きかかえて無理やり男の子を膝の上に座らせた。
男の子はウーウーと唸りながらドアの方を見ながら、ぐずっている。
小さな子どもは、自分のタイミングでやりたがる時期があるし、おとなしく座るのなんてできなくて当然だ。
おばあちゃんは、「バスの中は座るんだよ~」と優しく諭しながら、膝をゆらして男の子をあやしてる。初めはぐずっていた男の子も少しずつ気が紛れていた様子に私も心をなでおろした。
5分もしないうちに、またぐずり始めて、ドアの方に向かおうとしたがその度におばあちゃんは外の景色に気をひかせようとしたり、こちょこちょとくすぐったりして間を持たせていた。
なんて素晴らしい対応なんだろうと私は感心していた。
よくよく観察していると男の子はまだ言葉があまり出ていない様子だった。
「あー」「うー」とか喃語と呼ばれる発語がでているところからみると2歳くらいかなと思われた
元保育士の勝手な憶測
ここからはこの状況を見ていた私のすべて憶測。
この男の子は、保育士業界で言ういわゆる「気になる子」である可能性が高かった。
バスのドアで立ち止まったのは天井についているミラーに映る自分を見ていたし、駄々をこねるというよりは「こだわり」からその場を動けなかったというように見えた。
保育業界でいう「気になる子」とは障がいの診断はついていないが、発達障害などの可能性が高く、配慮が必要な子。
発達障害はある程度年齢が大きくならないと診断はつかないことが多いし、何よりまず保護者が認めて、診断をもらいに専門機関を受診してもらわないといけない。これがめちゃくちゃハードルが高い。
というわけで、診断のつかない「気になる子」は保育園にはたくさんいる。大人になって自分が発達障害に気付いたっていうのはこんな理由もあるかも。診断を受けるべきだとか言う話ではなくて、こういう事実があるということ。
ここからは私の意見だが「気になる子」っていうのはメチャクチャ可愛い。1対1で保育できるんだったらこんなに楽しいことはないってくらい。その子の世界観は素晴らしい。ただ、他にもたくさんの子がいる中での「気になる子」を保育するのはメチャクチャしんどい。これは保育士も、「気になる子」自身も。
保育士の人数を増やせば改善できる部分もあるんだけど、簡単に言うと障がいという診断名がないと「気になる子」にプラスで保育士がつくことはできない。
このシステムのために、保育士は保護者に気になる子どもの様子をやんわり伝えて、一度相談してみるのはどうですかとお伺いをたてる。
保育士はドクターではないので、言葉の端々にまで細心の注意を図るが、お伺いをたてたところで、保護者にはそのニュアンスは伝わるので(伝わらないと受診してもらえないからそれはそれで意味ない)クレームの嵐に陥ることが多い。
今の制度では1歳児で保育士に1人に対して6人の子どもを保育している。1歳児のクラスが18人だったら保育士は3人。これだけでも大変。更に気になる子がいると学級崩壊状態である。これは気になる子が悪いとかじゃない。システムの問題。
保育士が1人プラスされると、気になる子への配慮がしやすくなる。ずっと一対一で隔離したいとかではなく、ここぞ!というときにそっと見守ることができる状態を作れる環境が整っているかという問題。
1人1人に合った保育をとか、質の高い保育をとか言われてるけど、本当に厳しい状況。
バスの結末
話が大分それてしまったが、バスの入り口からミラーが気になってなかなか動けなかった男の子。
子どものわがままには違いないんだけど、バスの運転手さんもうちょっと優しいトーンで言ってあげてもいいんじゃないって。
こういうこだわりのある行動はたくさんある。おばあちゃんはその度に、毎回子どもの気持ちと周りへの気遣いに板挟みになってるだろう。しかし、本当におばあちゃんの対応は素晴らしかった。気持ちの切り替えが難しい子に対して、分かりやすく他の事象に気を引くテクニック。しかも押し付けがない。もしかしたら保育士か!?と思ったほどだった。
なんとかだましだまし、男の子の気を紛らわせ15分ほどが経ち、ようやく終点の駅に着いた。
私は心の中で、男の子によくできました~と頭をなで、おばあちゃんにブラボーと称賛の拍手を送った。
周りの乗客は私のそんな心の声にも気づかず、サッサとバスを降り始めた。おばあちゃんは優先座席に座っていたので、すぐに降りようと試みたが、また男の子がぐずり始めた。
どうやら今度はバスから降りたくないと椅子から降りようとしないようである。ひと悶着がある横を素通りしていく乗客たち。
私はその様子を見ていた。やはり恥ずかしながら、すぐには動けないものである。バスの中にはおばあちゃんと男の子と私と運転手。
運転手には期待できないのは、さっきのマイクの声で理解していたので、私は動いた。
「ベビーカー運びますね。」
おばあちゃんは
「今度は降りたくないんだってさ。ありがとう。」
この一言で、私はおばあちゃんがこの男の子の全てを受け止めているんだなと感じた。
私はベビーカーを降ろして、おばあちゃんは男の子を抱きかかえてバスを降りた。
「うるさくてすみません」と運転手にお詫びを言っていた。
バスを降りて、私はベビーカーを渡し男の子に
「偉かったね~!」と声をかけた。
おばあちゃんは「本当によく頑張ったわ(バスの時間を無事に乗り切った)」と男の子の頭を撫でた。
本当はもっとお手伝いしたかったが、これ以上はおせっかいになりそうな気がしたので男の子の目線に座り込み
「バイバ~イ」と手を振った。
男の子と私の目線が合うことはなかった。
おばあちゃんは苦笑いをしながら、男の子の手を持って「バイバイ」と返してくれた。
日本の保育に対して思うこと
平日の昼間に2歳の男の子がおばあちゃんとバスに乗っている。
この子は保育園には入れなかったのかな。
お父さんお母さんは仕事で、おばあちゃんがみてるのかな。(もちろんただおばあちゃんと遊んでいただけかもしれない)
気になる子はとても可愛いし、素晴らしいが、いろんな場面で難しいことの方が多い。その子たちが快適に過ごせる場所が保育園であるべき。
でも現場は厳しい状況。それで保護者の気持ちに寄り添うと言いながらも厳しい言葉をかけなければならないこともある。それは仕方ないことだと思って10年間保育士をしてきたけど、本当は全く寄り添ってなかったとおばあちゃんの苦笑いから思い知らされた。
保育士を辞めて半年以上たつが、やっと本当の保育士になれた気がした。
おばあちゃんや親は気になる子の一生を背負っているし、バスの15分間を何度も何度も何度も重ねている。保育士も長い時間子どもと接しているが、気になる子のしんどさは一緒に感じても保護者のしんどさは感じていない。
気になる子の保護者のしんどさを一緒に感じることが、保護者の気持ちに寄り添うことだったのか。
保育士不足とか、待機児童とか、保育を取り巻く問題は山積みだけど、とにかく今のままじゃみんなしんどい。
選挙で見事当選された偉い人、付け焼刃のじゃなくて本気の取り組みしてください。私はもう2度と保育士に戻ることはないが、やっぱり放っておけないのでよろしくお願いします。
それではまた(^^♪
ミニマリストのブログを読んでたつもりが、引き込まれました。ウチの発達障害児はもう高校生。不登校ぎみのゲームオタクに成長して毎日ガミガミ言ってました。息子が輝く宝石だった頃を思い出させて頂きました。生きてるだけでありがとうって思ってたな~ 涙出る~
ともちゃ様
コメントありがとうございます。
息子さんの小さいころを思い出してくださったんですね。昔も今も息子さんは輝く宝石です。
ゲームオタクに成長したんですね!素晴らしい!!熱中できる何かを見つけられたのは、ともちゃさんの温かい見守りの賜物と思います。